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1.自閉症の特性
自閉症は、1943年にアメリカのカナーが、1944年にオーストリアのアスペルガーが、それぞれお互いをまったく知らずに同時期に同じような研究発表
をしたことから、その臨床研究が始まりました。ですから、まだ発見されてから歴史は浅いのです。医学的に厳密に言うとアスペルガーの研究はカナーのそれと
は異なる部分があるため、現在ではアスペルガー症候群として分けて診断されるようになっていますが、基本的には同じ自閉症スペクトラム(自閉症の連続体)
であることには変わりありません。
自閉症は、漢字で書くと、「自ら心を閉ざしている」と書きますので、日本では大変誤解されてきました。これは日本語訳の問題だっただけで、本来は脳の気
質的な問題から起こる発達障害です。ですから、カウンセリングをしたら治るというものではありませんし、昔言われていたような「親の育て方のせいで自閉症
になる」等というものでもありません。自閉症が発生する原因は現在でも解明されていませんが、脳に問題があることだけはさまざまな研究で判明しており、発
達障害ですから自閉症そのものが治ると言うことは起こりにくいけれども、適した教育を受けることによりかなり社会適応を促すことができ、またその人なりの
自立的な生活を送ることができるようになる、ということも、これまでの研究実践で判明しています。
自閉症の障害の診断基準は、アメリカの精神医学会の診断基準(DCM-4)によると、次のようなものです。
1) 社会的な発達の質的な障害と想像性の欠如
2) 言語性・非言語性にかかわらず、コミュニケーションの発達に質的な障害がある
3) 興味関心が狭く限局的で、反復的な行動がある
1)は、なかなか社会性が自然には発達しない。対人関係がうまくとれなかったりします。また、いっしょにいる人の気持ちが読み取れなかったりします。社会
性という点では、社会的な判断力の弱さのために、柔軟性に欠ける部分も強く持っています。そのため、いったん学んだルールを自分が守っていて他人が守って
いないとイライラしたりしがちになりますが、逆にいうといったん学んで身に付けたルールなどは一生懸命守る、という強みでもあります。
2)は話せる・話せないにかかわらず、基本的なコミュニケーションの問題点を持っている、ということです。言葉が無い子どももいますし、しゃべることがで
きる自閉症の子どもでも、言語をつかうことでうまく人とコミュニケーションを図ることが難しい子が多いです。伝えたいこと・言いたいことがあってもうまく
伝えられないことが多いため、本人は苦しい思いをしがちです。
3)は、よくこだわりとなって現れます。一般の人には思いもかけないことにこだわったりするので、奇妙な行動として見られがちです。自閉症の脳の障害の最
も主たるものは脳内の情報処理のまずさだと言われています。その情報処理のまずさが、感覚的な問題を引き起こしがちになるので、自閉症の多くの子どもが感
覚的に異常ともいえる問題を持っているものです。たとえば、音に恐怖心を示して常に耳を押さえていたり、皮膚感覚の問題から着る服が限られていたり水遊び
を止められなかったり、味覚情報処理の問題から食べることのできるものが限られていたり、人の匂いをかいだり、キラキラするものに強く惹かれたりしがちで
す。
そういった1つ1つの弱点が重なって、実際の生活の中での自閉症の子どもの行動は、一般の人には理解しがたいことが多いです。たとえば、本人はいつも日
常生活の中の感覚的な問題に振り回されていることがあります。普通の人が気にならない音・光・物の配置など、彼らはとても気になります。時には苦痛なほど
です。耳押さえをしたり目を手で覆ったりしているかもしれません。言葉をかけられても意味が分からず、相手を無視したように見えるかもしれません。そんな
ときに周囲の人が、騒音を立て続けたり、本人には意味のわからない言葉をかけ続けたりすると混乱しやすくなります。混乱すると本人は大変苦痛を味わい、そ
の苦痛を表現する方法をしらないために、「助けて欲しい」という思いで騒ぎ出します。そんな時彼らには社会的な判断は難しいですから「公共の場だから静か
に」ということは理解できません。本人の苦痛の原因に気づかない周囲の大人が、その「助けて欲しい」合図である「騒ぎ」を原因を解決することなくただ止め
させようとしたとします。大抵こういう場合、自閉症の人はさらに怖くなって騒ぎだし、パニックに陥り、自分の周囲の人に対して攻撃的な行動を取ったりしま
す。本人にとっては自分のみを守るためなのですが、周囲の人はなかなかそれが理解できません。
2.自閉症の中の少数派
自閉症の発生率は、だいたい1万人に4〜5人だと言われています。自閉症それ自体は知的障害ではありませんが、自閉症の人の約8割程度の人が知的障害
(ダウン症を含む)やそのほかの発達障害と合併して発生しています。しかし、それ以外の人たちは、かなり知的な能力は高いものを持っています。なかには教
科の学習だけ見ると、一般の子ども達よりもずっと成績が良い子どももいたりします。そういう子ども達の中には言語もまるで普通の子ども達のようにしゃべる
ことができる自閉症もいますので、なかなか自閉症とは分かりにくかったりします。しかし、やはり同じ特性をもっていて、社会性や対人関係に大きな問題があ
り、言葉を自由に操っているように見えても厳密に評価すると、実は言葉の使い方や使用する場面の選択に問題があったり、感覚的な問題も強く持っていてこだ
わりも異常に強い、ということがよく見られます。こういった子ども達は、「機能の高い自閉症」とか「アスペルガー症候群」と診断され、日常生活上の問題点
は知的障害を合併している自閉症の子ども達と何ら変わりがないのです。むしろ、学習がよくできたり言葉をしゃべったりするために、周囲の人から「障害」と
して理解されず、いじめの対象になりがちだったり、適切な手立てをほどこしてもらえなかったりして、本人達が感じている生活上の困難は、大人が思っている
以上に大きいものです。親や教師も、本人の高い能力に期待をかけすぎ、本人の弱点である社会的な問題、対人関係の弱さなどに手立てをとることを忘れがちに
なります。本人自体が「自分は人と違っている」ことに気づくため、成長すると共に自信を失い、混乱しがちになります。そうなると、自閉症本来の問題点が知
的障害を合併している自閉症の子ども達と同じように強く発現して、行動上の問題となりがちだったり日常生活が困難になります。大学を卒業した自閉症の人も
多いのですが、なかなか自立には結びつきません。高い知的能力を持っているからといって、将来自立的生活ができるようになると言うわけではないところに、
自閉症の人の困難があります。また、こういった子ども達は自閉症の中でも少数なため、親の悩みも周囲の人に理解してもらいづらく、親も子も社会的に孤立し
がちになります。
3.TEACCHプログラム
このように知的には高い能力を持っていても、自閉症は手立ての困難な発達障害です。これまでの研究で、自閉症の教育には、自閉症のための特別な教育のあ
り方が有効であることがわかっています。アメリカ合衆国のノースカロライナ州が30年前から実施しているTEACCH(ティーチ)という教育福祉制度がそ
れを証明しています。
自閉症の人は弱点も多いのですが、見て覚える・見て経験して覚える、というビジュアルパーセプションに強みを持っています。それを解明したエリック=
ショプラー博士が、自閉症の人の学習に必要な情報をすべて視覚化して提供する「構造化された指導」というのを開発しました。ノースカロライナ州は1972
年にそれを州の制度として採用し、学校教育にも、福祉支援、たとえば成人期のグループホームなどの居住支援や就労支援にも、自閉症の人のためにその「構造
化された指導」を支援として提供するという、自閉症に特化した教育福祉制度です。そのため、現在のノースカロライナでは自閉症の人のうち約96%の人が、
何らかの形で自立して地域社会で生活できるようになっています。
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